名作打率No.1!古谷実のヒメアノ〜ルを紐解く
『行け!稲中卓球部』 『僕といっしょ』 『グリーンヒル』 『ヒミズ』 『シガテラ』『わにとがげぎす』 『サルチネス』 そしてこの『ヒメアノ~ル』。古谷実さんの漫画は大好きです。先日の社員旅行で沖縄に行った際、”沖縄県糸満市”という字面を見て、”辮髪-ベンパツ-”のイトキンが頭に浮かびました。画面越しにニヤニヤしたあなた!古谷実漫画大好きですね?
彼のキャリア前半、テンポの良いコミカルなギャグ漫画とは、一線を画するヒミズ以降の作風。中でも日常の暖かさと真逆にある死や病、社会の闇を、背筋がヒヤリとするくらいの描写で表現しているのが今回紹介する『ヒメアノ~ル』です。彼の作品ではよく平凡な主人公がフォーカスされるのですが、この作品の岡田(演: 濱田岳)もそんな平凡な主人公のうちの一人です。ビルの清掃のバイトをしながら一人暮らし。彼女も趣味もなく、家に帰ってもなにもすることはない。夢もない。そんな自分のダラダラとしている生活にどこか危機感や不安はあるのに、なにも変えられない。そんな日常にある変化が訪れます。
この物語には、平凡とは真逆の人物が登場します。カフェでたまたま出会った高校の頃の同級生、森田くん(演: 森田剛)。彼は自分自身が異常であるということ、どこかで自覚しています。普通、異常って誰が決めるの?とか、ちょっと変わってるくらいだよ、とかそんな定型化した慰めにもならないちゃちな表現は彼には届きません。彼は異質で、異常。そんな彼に、岡田が、いや社会が振り回されるサイコサスペンス映画です。
エロ要素、グロ要素共に相まってR-15のようです。R-18でも良いと思うのですが…サイコサスペンスと表現しましたが、この映画内で起こることは、明日あなたに、あなたの恋人に、あなたの子供に起きてもおかしくありません。冒頭で表現した”背筋がヒヤリとするくらいの描写”とはそういった意味で、どこでもありうる話だからこそなのです。残酷で非情な出来事は、案外平凡な日常と表裏一体です。むしろ、日常生活に面しているからこそ、冷酷で、淡々としたサイコ感が出るのでしょうか。
あなたは普通でしょう。僕も普通です。森田くんのように自分の異質性に悩み、苦悩したことはありません。きっとあなたもそんな経験はないでしょう。でも、スーパーのレジの人が、タクシーの運転手が、隣人が、子供の同じクラスに、職場の上司が…
平凡な日常が崩れ去るのは、一瞬です。